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 『世界の美しい本』(パイ・インターナショナル)が出ました。<美しい本>を集めた、空想図書館です。ずっと本に関わってきた私にとって、とてもうれしい企画でした。中世の写本からウイリアム・モリスの<美しい本>、マティスやピカソの<アーティスト・ブック>(画家の本)までを集めて、その中をめぐっていきました。
 あらためて、本が一つの美術として長い歴史を持っていることを感じさせられました。本の美術史をたどることができたことは、とてもいい勉強になりました。たとえば、活字体をデザインする<タイポグラフィ>についてはこれまできちんと考えたことがなかった。ところがグーテンベルク以来のタイポグラファーたちは、人間的にも面白い。字というのは、単なる形ではなくて、人間の思想や生き方にも関係していることを知ることができた。  以前から興味を持っていたヨーロッパ中世の彩飾写本について歴史的に調べられたのも大きな収穫だった。はじめは区別がつかなかった写本の挿絵や装飾が、ようやく歴史的な様式の変化がいくらか見分けられるようになり、面白さが少しずつわかってきた。この本でそのことをできるだけ伝えたいと思った。
 万巻の書について、どのようにまとめたらいいのか、はじめは漠然としていた。しかし少しずつ歴史的な流れが見えてきて、<本>の美術史の大きな流れをたどることができたと思う。
 <本>は読むものであるが、一つのものとして、美術的な魅力を持っている。電子本によって紙の本の時代は終わったといわれているが、歴史的にこれほど厖大な蓄積を持っている<本>の魅力は文化遺産として決して失われることはないだろう。この本をつくりながら、そのことを強く感じた。そしてあらためて、まだまだ本好きの人はいるのではないかと思えてきた。というのは、この本は発売前から反響があって、待っていてくれる読者がいたからである。その人たちの期待にこたえられるものになっていると。いいのだが。
 ピエ・ブックスの「読むビジュアル・ブック」のシリーズもこの本で十五冊となった。いずれも編集者の情熱的な思いによって、珠玉の図版が集められている。そしてこの本は、おとぎ話の挿絵からロシア、アヴァンギャルドにいたる、このシリーズの企画の集大成ともいえるものとなった。
 そしてあらためて、この本に集められたテーマをそれぞれにまとめていきたいと思っている。
 失われようとする<本>の魅力を、この<美しい本>の空想図書館によって甦らせたいと私は願っている。

このごろのこと

 映画について、このごろまた書くようになりました。映画についてよく書いていた時代がありました。試写会にも通っていました。その後、しばらく映画について書く機会がなくなりました。去年ぐらいから、主に『キネマ旬報』で映画について書く機会があり、映画との縁がもどってきたようで、うれしいことです。グザヴィエ・ジャノリ監督の『偉大なるマルグリット』、ジョン・ワッツ監督の『コップ・カー』、そして今、フランシス・コッポラ監督の『地獄の黙示録』いついて書いているところです。いずれも、私が興味のある一つの時代との重ね合わせが映画の魅力となっています。『偉大なるマルグリット』はパリのベル・エポックそしてアメリカのオペラ界の、『コップ・カー』はアメリカのハイウェイが舞台で、ケルアックの『オン・ザ・ロード』などに書かれたビート・ジェネレーションの時代を思わせます。そして『地獄の黙示録』はベトナム戦争の時代を背景としていますが、一九六〇年代の<カリフォルニア文化>に彩られていることが、今あらためて見ると強く感じられます。
 このところ一九五〇年代、六〇年代といった二十世紀のなつかしい時代のリバイバルが目につくように思えるのですが、気のせいでしょうか。二〇一六年一月十日、デヴィット・ボウイが亡くなりました。古い資料を整理していたら、一九八三年のボウイの「シリアス・ムーンライト・ツアー」(武道館)のプログラムが出てきて、こんなものを見ていたんだ、となつかしかった。するとミュージック・マガジンから、前にこの雑誌に書いたボウイ公演についての文章を『レコード・コレクターズ』四月増刊号「デビット・ボウイ・アンソロジー」に再録したいといってきた。すっかり忘れていたが、私はこんなものを書いていたのだ。いや、時代に書かされていたのだ。昔の自分が突然あらわれたようで恥ずかしい。
 これからの仕事としては、まずアルフォンス・ミュシャについて書くことにしている。ミュシャについては多くの本が出ているが、<世紀末アール・ヌーヴォー>を勉強し直して、なんとか新しい切り口を見つけたい。そしてアール・ヌーヴォー以後の、ミュシャがふるさとチェコに回帰し、<スラヴ主義>を幻想するところを書いてみたい。  次に『アラビアン・ナイトの挿絵』をまとめたいと思っている。西洋のイラストレーターが描いたアラビアン・ナイトのもとになっているイスラムのミニアチュールが気になっている。『世界の美しい本』で西洋のミニアチュールをとりあげたが、イスラムのミニアチュールまでは手がおよばなかった。
 <イスラム文化>について知りたいと思って調べはじめたが、いくつかのことが気になりだした。まず<イスラム>について、私たち日本人はきわめてわずかな知識しかないことにおどろかされる。たとえば十五巻ぐらいの世界史で、西洋や中国については何巻もの頁が割かれているが、イスラムはほとんど一巻にまとめられている。イスラムは西洋におとらない豊かな歴史を持っているから、それを一巻にすると、複雑で、ごちゃごちゃして、流れが理解しにくい。  さらにイスラム美術史となると、きわめて少なく、日本にあまり紹介されていない。イスラムは、大きくいえば東洋文化に入るはずだが、日本は直接イスラムを知らず、むしろ西洋のイスラム学を通して、つまり西洋の眼を通してイスラムを見ている。  これは現在のイスラムについてもそうで、<イスラム>というと私たちは<イスラム国>とかテロリストを思い浮かべるが、これは欧米の眼による<イスラム>なのである。
 しかし、<イスラム>を歴史的に、文化的に知ろうとすると、それがいかに複雑で、しかも豊かな歴史であり文化であることにおどろかされる。イスラムというとセクト的な、排他的な原理主義と見られるが、かつては異人や異文化に寛容な世界であった。サイードの『オリエンタリズム』は、イスラムへの西洋の眼の偏りを批判した。<イスラム>についてもっと知りたいと思う。まず、ミニアチュールをはじめとするイスラム美術について少しでも知りたい。サイードの『オリエンタリズム』は、美術については触れていなかった。イスラム美術について知りたいと思っていたが、あまり未知の領域なので、せめてその一端だけでも、のぞきたい。ともかく今、<イスラム>は魔法のことばのように私をとらえているのである。
 先日、旅をした。『小原流挿花』の連載「日本史の旅人」の取材で、関ヶ原合戦場を歩く目的でした。そのついでにふらふらした三つの町並が楽しい息抜きになりました。一つ目は彦根です。石田三成の城であった佐和山を雨の中に登って、へとへとになって下りてきて、彦根の町にもどってきました。以前には彦根城のあたりは歩いたことはあるのですが、今回は街中を散歩しました。京町通商店街を南へ向い、銀座を通りこして進むと芹川に出ました。銀座までもどり、四番町スクエア、夢京橋キャッスルロードなどの商店街をめぐりました。入ってみたいカフェがあちこちにありました。その一つに入り、やきたてのワッフルとうまいコーヒーで一服しました。
 二つ目の町は長浜です。この前は仏像を見てまわったのですが、街は見ませんでした。今回も別の目的でしたが、少し時間があったので、<黒壁スクエア>といわれる駅前商店街をふらついて見ました。土蔵などを利用した魅力的な店が並んでいました。英国のアンティークとコーヒーの店があったので入ってみたのですが、今日、閉店したところだとのことでした。ちょっとさびしい出会いでした。
 三つ目の町は大垣です。芭蕉の奥の細道の結びの地で、以前に「奥の細道」を歩いたことがあり、最後にここに来ました。なつかしいので、芭蕉が船に乗ったところを再訪しました。大垣城の掘り割りがめぐらされた道を行くと、水門川に出ます。まわりは整備されて、ずい分変わっていましたが、芭蕉とそれを送る大垣の俳人木因の像はそのままでした。私はこの前も寄ったことがある喫茶「むすび」でコーヒーを飲みました。古いなつかしい時がゆっくり流れていくようでした。私はまた大垣の町にくることができた。ほんの少しいて、またすぐにたっていかなければならないが、もう一度、この川辺を歩けたことを感謝することにしよう。

 
北欧の挿絵とおとぎ話の世界

世界の美しい本

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

マティスの切り絵と挿絵の世界

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

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ロシア・アヴァンギャルドのデザイン

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未来を夢見るアート

チェコの挿絵とおとぎ話の世界

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世界の雪景色

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世界陰謀全史

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ハリー・クラーク

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魔女の世界史──女神信仰からアニメまで

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1914年: 100年前から今を考える

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世紀末の光と闇の魔術師 オーブリー・ビアズリー

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ヨーロッパの装飾と文様

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神話・伝説とおとぎ話-ヨーロッパの図像

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万国博覧会の二十世紀

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ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン

ウィリアム・モリス
- クラシカルで美しいパターンとデザイン

 

あいさつ

 海野弘ワールドにようこそ。長いこと、さまざまなテーマを書いてきました。自分がどこを歩いているのかわからなくなる時があるほどです。
 一つの区切りとして、自分の世界を整理し、その見取り図をつくってみることにしました。そこでは、情報の三つの柱を伝えたいと思います。
 一つはこれまでやってきた仕事をたどることです。単行本にまとめられたものを中心に、まだ本に入っていないものについても拾ってみたいと思います。

あいさつタイトル

 二つ目は今やっている仕事についてです。新聞や雑誌の連載など書く仕事だけでなく、講演やインタビュー、座談会、そして取材の旅といった仕事についても触れるつもりです。
 三つ目はこれからどこに向かうかについてです。決まっているだけではなく、長いこと考えてきて、なかなか実現しない企画や、最近ふと思いついたテーマなど、私の夢についても語りたいと思います。
 私の旅してきた世界は私だけのものではなく、多くの先人から贈られたものです。私もまたそれを次の世代に送っていきたいと願っています。そのためにこの小さな窓が役立てばうれしいのですが。

署名

お知らせ

2011年7月29日

 以前に河出書房新社から出した『江戸ふしぎ草子』のシリーズ(全六巻)が今度、平凡社ライブラリーに入ることになりました。秋には第一冊が出る予定です。
 このシリーズは朗読会やラジオでの朗読などで読ませてほしいという依頼をよく受けます。私としても愛着のある作品なので、新しい形で出ることになり、楽しみにしています。

2010年9月16日

『名門大学スキャンダル史:あぶない教授たちの素顔』(平凡社新書)が刊行されました。

近況

この夏は、カイ・ニールセンという挿絵画家について書いていました。アーサー・ラッカムやエドモンド・デュラックと並んで、二十世紀初頭の挿絵の黄金時代をつくったイラストレーターの一人です。ひさしく忘れられていましたが、このところ再発見、再評価されています。その名品集をマール社から出すことになり、解説を書きました。『世紀末のイラストレーターたち』以来の、ひさびさのイラストレーター論なので、とてもうれしい仕事でした。
『ファンタジー文学入門』(ポプラ社)を書いた時、また、ファンタジーのイラストレーションのことを書きたいと思っていたところでした。ニールセンの絵本もかなり集まってきたので、どこかのギャラリーで絵本展をやりたいな、と夢をふくらませています。
東京新聞(2010年9月6日号)に、「古賀春江展」(神奈川県立近代美術館 葉山)について書きました。古賀も一種のファンタジー画家といえるでしょう。
今、書いているのは『おじさん、おばさん論』(幻戯書房)です。ニュートンからジャック・タチの『ぼくの伯父さん』まで、百人以上のおじさん・おばさんが登場します。

2010年8月31日

語りの会 ぼてふり 第六回公演にて、海野弘 作『江戸妖かし草子』より「女目医者」が上演されます。
日時:2010年9月10日(金)
    昼の部:14:30開演
    夜の部:16:30開演
場所:深川江戸資料館・小劇場
入場料:\2,000
問い合わせ:語りの会 ぼてふり事務局 神橋武典
    03-3337-9307
    090-1556-2009
    botefuri@nifty.com

2010年4月21日

『秘密結社の時代 鞍馬天狗で読み解く百年』(河出ブックス)が刊行されました。
巻末に時代をたどるのに便利な年表を入れ、挿絵などもちりばめた楽しい本になっています。

『花に生きる-小原豊雲伝』(平凡社)も5月刊行の予定です。
久生十蘭、大佛次郎、そして小原豊雲と、近代史の人物評伝がつづきました。
よろしくお願いします。

2010年3月12日

以下、書影を追加しました。 『スキャンダルの世界史』
『イリュージョン デザイン:知覚 想像力 空間』
『ジャズ・スタンダード100:名曲で読むアメリカ』
『シャンハイモダン:上海摩登』
『モダン都市文学Ⅰ:モダン東京案内』
『モダン都市文学Ⅵ:機械のメトロポリス』
『音楽の万華鏡②:一九二〇年代の音楽』
『海野弘の街あるき館さがし』
『久生十蘭 『魔都』『十字街』解読』
『現代美術:アール・ヌーヴォーからポストモダンまで』
『崇拝からレイプへ:映画の女性史』
『伝説の風景を旅して』
『秘密結社の日本史』 よろしくお願いします。

2010年2月22日

Websiteをオープンしました。
よろしくお願いします。
雑誌掲載

「旅サライ」(小学館) 2010年2月26日発売

「必ず訪ねたい個人美術館」に書いています。

『小原流挿花』

「日本史の旅人」を連載中。
新刊

ロシアの挿絵とおとぎ話の世界

パイインターナショナル 2012年12月21日刊行

流線の挿絵画家 ジェシー・キング

マール社 2012年10月29日刊行

おとぎ話の古書案内

パイインターナショナル 2012年10月19日刊行

プルーストの浜辺
-「失われた時を求めて」再読

柏書房 2012年7月刊行

二十世紀美術 一九〇〇~二〇一〇

新曜社 2012年7月刊行

スキャンダルの世界史

文藝春秋 2012年5月10日刊行

野の花の本 ボタニカル・アートと花のおとぎ話

パイインターナショナル 2012年4月30日刊行

夢見る挿絵の黄金時代
-フランスのファッション・イラスト

パイインターナショナル 2012年4月30日刊行
新聞掲載

東京新聞(2010年9月6日号)

「古賀春江展」(神奈川県立近代美術館 葉山)についての記事が掲載されました。

朝日新聞 2010年1月24日朝刊

『スキャンダルの世界史』の書評が掲載されました。

日本経済新聞 2010年1月17日朝刊

『スキャンダルの世界史』の書評が掲載されました

日本経済新聞 夕刊

「プロムナード」に、2009年7月~12月まで毎週木曜日にエッセイを連載。
講演

2013年4月13日(土)午後2時

東京六本木の新美術館で、「カリフォルニア文化とデザイン」について話します。→詳しくはこちら

2013年3月16日(土)午後2時

北海道立近代美術館で「魅惑の世紀末 アール・ヌーヴォーの世界」を話します。→詳しくはこちら

2010年1月末

石川県立九谷焼研修所でモダン・デザイン史の講義を予定しています。
構想メモ

構想がまとまってはいないが、書く約束はしているもの~

『志賀直哉と奈良芸術村』
 志賀直哉は1925~1938年まで奈良の高畑に住み、そのまわりに作家や画家が集まり、芸術サロンができていた。そこで奈良<天平>芸術が発見されてゆく。そのアーティスト・コロニー(芸術家村)の物語を書いてみたい。
『斜めに橋を架ける-おじさん、おばさん論』
 日経新聞の「プロムナード」に書いたのだが、文化や知識は、親から子へという直線によって継がれるだけでなく、おじさんやおばさんという斜線によって伝がれることが重要ではないかと思う。おじやおばによる文化の伝達によって、異文化が注入され、豊かになるのだ。文化がそれぞれ孤立している現代において、おじさん・おばさんの役割を再評価したい。

まだ漠然としたアイデアだけで、いつか書いてみたいと思っている企画。
止めどなくあるうちの、いくつか~

『ニューヨーク1950年代』
 1920年代のパリに代わって、戦後のニューヨークは世界の先端となった。ビート文学、抽象表現主義のアート、モダン・ジャズの三本の柱によって、ニューヨークを書きたい。
『プルーストの浜辺』
 『プルーストの部屋』とペアになる本として、プルーストと1900年のノルマンディーの浜辺について書きたい。

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