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 『ヨーロッパの幻想美術─世紀末デカダンスとファム・ファタルたち』(パイ・インターナショナル)が出ました。世紀末象徴主義の幻想美術を、その女性像を中心にしてまとめたものです。
 私がこれまで断片的に興味を持ってきたフランスの象徴主義、イギリスのラファエル前派、オーストリアの分離派、アール・ヌーヴォーなどを一つのパースペクティヴのうちにまとめてみたいという夢を実現することができました。<象徴主義>の美術は、<印象主義>のように一つの表現スタイルを持たないので、これまで美術史では忘れられていました。しかし、アール・ヌーヴォーの再評価とともに、世紀末美術の全体、それを支える<象徴主義>があらためて浮上してきました。この本はそれについての私なりのまとめです。
 <世紀末>から出発し、ずっとそこでさまよってきた私が、やっとそれをまとめることができたことにさまざまな感慨が浮かんできます。それぞれ、ばらばらに興味を持ち、資料を集めては、そのままになっていた画家たちがこの本で甦ってきました。たとえば、ギュスターヴ・モッサは、ニースにジュール・シェレのポスター美術館を見に行った時に見つけた画家です。その時の資料が思いがけなく役に立ち、失われた時がもどってきました。
 この本のもう一つのねらいは、世紀末にあらわれた<ファム・ファタル>(宿命の女)の図像です。なぜ世紀末は、<恐い女>に憑かれていたのでしょうか。サロメからオフィ─リアにいたる世紀末の女性像を分類し、その意味を明らかにしたいと思いました。
 そのことは一九七〇年代以後のフェミニズムにあらわれた<ゴシック>の新しい解釈と結びついていることに気づきました。そこで行なわれている美術史の新しい読み直しと<世紀末>美術の再評価はつながっているのです。それについてはこの本のあとがき「<世紀末デカダンス>リターンズ」で触れました。百年前の世紀末の女性像が、新しい意味のうちに見えてきていることをこの本で伝えたいと思います。
 そのような私の願いにこたえて、豊かな図版を集め、それを見事にデザインしてくれた編集者とデザイナーに深く感謝します。その人たちがいなかったら、私の中に埋もれていたことばとイメージは永い眠りから覚めることはなかったでしょう。

近況

 先日、四国に旅をしました。松山空港からJR松山駅に出て、予讃線で西へ、<四国の終着駅>といわれている宇和島で降りました。ここは伊達政宗の息子が藩主として移ってきて、明治までつづいた城下町です。東北からはるばるこの四国までやってきた伊達家の人々を思うと溜息がでます。
 次の日は松山にもどる途中の大洲に行きました。ここはかつて、NHKテレビの朝のドラマ『おはなはん』の舞台になった町です。おはなはんを樫山文枝が演じました。その父上である樫山欽四郎先生に私は大学で哲学を習いました。などとなつかしい気分で町をめぐりました。
 三日目は松山に泊まりました。松山市の隣の東温市にある高畠華宵大正ロマン館で、私が出した『オリエンタル・ファンタジー』(パイ・インターナショナル)にちなんで「オリエンタル・ファンタジー展─ 草宵とアラビアン・ナイトの物語」を開いてくれたので見に行きました。ひさしぶりに館長にお会いして、その夜はごちそうになってしまいました。この美術館とも長いつきあいです。挿絵という小さな美術の魅力を伝えようとする思いを共有する仲間です。
 松山ではうれしい偶然がありました。愛媛県美術館で「杉浦非水展」が開かれていたのです。杉浦非水は、日本にもアール・ヌーヴォーがあった、と感じさせた最初の画家でした。ほとんど忘れられて非水を調べはじめたときのことが思い出されます。その遺品がこの美術館に入り、その記念展とのことでした。たまたま松山を訪ねて、それにぶつかったことは幸運でした。もしかしたら、非水に呼ばれたのかもしれません。

映画『カフェ・ソサエティ』

 ウディ・アレンの映画『カフェ・ソサエティ』を見ました。八十歳を過ぎたアレンの若々しい創作力におどろきます。一九三〇年代のハリウッドとニューヨークの物語です。<カフェ・ソサエティ>は古い<上流社会、社交界>に代わって第一次世界大戦後にあらわれた<新社交界>で、ヨーロッパとアメリカをまたにかけるセレブたちのファッショナブルなライフスタイルのことです。私はいつか<カフェ・ソサエティ>の風俗史を書いてみたいと思って、資料を集めていたので、この映画はとても面白く見ました。『ラ・ラ・ランド』につづいて、このごろ古きよきアメリカをなつかしむ映画が続くような気がします。

これからの仕事

 平凡社新書で出した『秘密結社の世界史』が今度、朝日文庫になります。新書を書いてからもう十年が過ぎているのだ、と思いました。書き足しをしながら、あらためて、このごろまた、陰謀とか秘密結社といったおどろおどろしい現象が関心を呼んでいることに気づきました。トランプの登場はその予兆ではないでしょうか。
 いつか出したいと思っていた『ロシアの世紀末 ─ 銀の時代』(新躍社)もやっと最後の段階にたどり着き、あと少しです。今年は、私の<世紀末>への旅がぐるりとひとまわりしてもどってきたように見えたりします。  『ヨーロッパの幻想美術』の次には、『花の美術史』を準備しています。

オリエンタル・ファンタジー:アラビアン・ナイトのおとぎ話ときらめく装飾の世界

ヨーロッパの幻想美術
─世紀末デカダンスとファム・ファタルたち

オリエンタル・ファンタジー:アラビアン・ナイトのおとぎ話ときらめく装飾の世界

オリエンタル・ファンタジー:
アラビアン・ナイトのおとぎ話ときらめく装飾の世界

アルフォンス・ミュシャの世界――2つのおとぎの国への旅

アルフォンス・ミュシャの世界
――2つのおとぎの国への旅

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

世界の美しい本

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

マティスの切り絵と挿絵の世界

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

北欧の挿絵とおとぎ話の世界

ロシア・アヴァンギャルドのデザイン

ロシア・アヴァンギャルドのデザイン
未来を夢見るアート

チェコの挿絵とおとぎ話の世界

チェコの挿絵とおとぎ話の世界

世界の雪景色

世界の雪景色

世界陰謀全史

世界陰謀全史


ハリー・クラーク

ハリー・クラーク


魔女の世界史──女神信仰からアニメまで

魔女の世界史 ── 女神信仰からアニメまで

1914年: 100年前から今を考える

1914年: 100年前から今を考える





世紀末の光と闇の魔術師 オーブリー・ビアズリー

世紀末の光と闇の魔術師 オーブリー・ビアズリー

 

ヨーロッパの装飾と文様

ヨーロッパの装飾と文様

 

神話・伝説とおとぎ話-ヨーロッパの図像

神話・伝説とおとぎ話-ヨーロッパの図像

 

万国博覧会の二十世紀

万国博覧会の二十世紀

 

ウィリアム・モリス - クラシカルで美しいパターンとデザイン

ウィリアム・モリス
- クラシカルで美しいパターンとデザイン

 

あいさつ

 海野弘ワールドにようこそ。長いこと、さまざまなテーマを書いてきました。自分がどこを歩いているのかわからなくなる時があるほどです。
 一つの区切りとして、自分の世界を整理し、その見取り図をつくってみることにしました。そこでは、情報の三つの柱を伝えたいと思います。
 一つはこれまでやってきた仕事をたどることです。単行本にまとめられたものを中心に、まだ本に入っていないものについても拾ってみたいと思います。

あいさつタイトル

 二つ目は今やっている仕事についてです。新聞や雑誌の連載など書く仕事だけでなく、講演やインタビュー、座談会、そして取材の旅といった仕事についても触れるつもりです。
 三つ目はこれからどこに向かうかについてです。決まっているだけではなく、長いこと考えてきて、なかなか実現しない企画や、最近ふと思いついたテーマなど、私の夢についても語りたいと思います。
 私の旅してきた世界は私だけのものではなく、多くの先人から贈られたものです。私もまたそれを次の世代に送っていきたいと願っています。そのためにこの小さな窓が役立てばうれしいのですが。

署名

お知らせ

2011年7月29日

 以前に河出書房新社から出した『江戸ふしぎ草子』のシリーズ(全六巻)が今度、平凡社ライブラリーに入ることになりました。秋には第一冊が出る予定です。
 このシリーズは朗読会やラジオでの朗読などで読ませてほしいという依頼をよく受けます。私としても愛着のある作品なので、新しい形で出ることになり、楽しみにしています。

2010年9月16日

『名門大学スキャンダル史:あぶない教授たちの素顔』(平凡社新書)が刊行されました。

近況

この夏は、カイ・ニールセンという挿絵画家について書いていました。アーサー・ラッカムやエドモンド・デュラックと並んで、二十世紀初頭の挿絵の黄金時代をつくったイラストレーターの一人です。ひさしく忘れられていましたが、このところ再発見、再評価されています。その名品集をマール社から出すことになり、解説を書きました。『世紀末のイラストレーターたち』以来の、ひさびさのイラストレーター論なので、とてもうれしい仕事でした。
『ファンタジー文学入門』(ポプラ社)を書いた時、また、ファンタジーのイラストレーションのことを書きたいと思っていたところでした。ニールセンの絵本もかなり集まってきたので、どこかのギャラリーで絵本展をやりたいな、と夢をふくらませています。
東京新聞(2010年9月6日号)に、「古賀春江展」(神奈川県立近代美術館 葉山)について書きました。古賀も一種のファンタジー画家といえるでしょう。
今、書いているのは『おじさん、おばさん論』(幻戯書房)です。ニュートンからジャック・タチの『ぼくの伯父さん』まで、百人以上のおじさん・おばさんが登場します。

2010年8月31日

語りの会 ぼてふり 第六回公演にて、海野弘 作『江戸妖かし草子』より「女目医者」が上演されます。
日時:2010年9月10日(金)
    昼の部:14:30開演
    夜の部:16:30開演
場所:深川江戸資料館・小劇場
入場料:\2,000
問い合わせ:語りの会 ぼてふり事務局 神橋武典
    03-3337-9307
    090-1556-2009
    botefuri@nifty.com

2010年4月21日

『秘密結社の時代 鞍馬天狗で読み解く百年』(河出ブックス)が刊行されました。
巻末に時代をたどるのに便利な年表を入れ、挿絵などもちりばめた楽しい本になっています。

『花に生きる-小原豊雲伝』(平凡社)も5月刊行の予定です。
久生十蘭、大佛次郎、そして小原豊雲と、近代史の人物評伝がつづきました。
よろしくお願いします。

2010年3月12日

以下、書影を追加しました。 『スキャンダルの世界史』
『イリュージョン デザイン:知覚 想像力 空間』
『ジャズ・スタンダード100:名曲で読むアメリカ』
『シャンハイモダン:上海摩登』
『モダン都市文学Ⅰ:モダン東京案内』
『モダン都市文学Ⅵ:機械のメトロポリス』
『音楽の万華鏡②:一九二〇年代の音楽』
『海野弘の街あるき館さがし』
『久生十蘭 『魔都』『十字街』解読』
『現代美術:アール・ヌーヴォーからポストモダンまで』
『崇拝からレイプへ:映画の女性史』
『伝説の風景を旅して』
『秘密結社の日本史』 よろしくお願いします。

2010年2月22日

Websiteをオープンしました。
よろしくお願いします。
雑誌掲載

「旅サライ」(小学館) 2010年2月26日発売

「必ず訪ねたい個人美術館」に書いています。

『小原流挿花』

「日本史の旅人」を連載中。
新刊

ロシアの挿絵とおとぎ話の世界

パイインターナショナル 2012年12月21日刊行

流線の挿絵画家 ジェシー・キング

マール社 2012年10月29日刊行

おとぎ話の古書案内

パイインターナショナル 2012年10月19日刊行

プルーストの浜辺
-「失われた時を求めて」再読

柏書房 2012年7月刊行

二十世紀美術 一九〇〇~二〇一〇

新曜社 2012年7月刊行

スキャンダルの世界史

文藝春秋 2012年5月10日刊行

野の花の本 ボタニカル・アートと花のおとぎ話

パイインターナショナル 2012年4月30日刊行

夢見る挿絵の黄金時代
-フランスのファッション・イラスト

パイインターナショナル 2012年4月30日刊行
新聞掲載

東京新聞(2010年9月6日号)

「古賀春江展」(神奈川県立近代美術館 葉山)についての記事が掲載されました。

朝日新聞 2010年1月24日朝刊

『スキャンダルの世界史』の書評が掲載されました。

日本経済新聞 2010年1月17日朝刊

『スキャンダルの世界史』の書評が掲載されました

日本経済新聞 夕刊

「プロムナード」に、2009年7月~12月まで毎週木曜日にエッセイを連載。
講演

2013年4月13日(土)午後2時

東京六本木の新美術館で、「カリフォルニア文化とデザイン」について話します。→詳しくはこちら

2013年3月16日(土)午後2時

北海道立近代美術館で「魅惑の世紀末 アール・ヌーヴォーの世界」を話します。→詳しくはこちら

2010年1月末

石川県立九谷焼研修所でモダン・デザイン史の講義を予定しています。
構想メモ

構想がまとまってはいないが、書く約束はしているもの~

『志賀直哉と奈良芸術村』
 志賀直哉は1925~1938年まで奈良の高畑に住み、そのまわりに作家や画家が集まり、芸術サロンができていた。そこで奈良<天平>芸術が発見されてゆく。そのアーティスト・コロニー(芸術家村)の物語を書いてみたい。
『斜めに橋を架ける-おじさん、おばさん論』
 日経新聞の「プロムナード」に書いたのだが、文化や知識は、親から子へという直線によって継がれるだけでなく、おじさんやおばさんという斜線によって伝がれることが重要ではないかと思う。おじやおばによる文化の伝達によって、異文化が注入され、豊かになるのだ。文化がそれぞれ孤立している現代において、おじさん・おばさんの役割を再評価したい。

まだ漠然としたアイデアだけで、いつか書いてみたいと思っている企画。
止めどなくあるうちの、いくつか~

『ニューヨーク1950年代』
 1920年代のパリに代わって、戦後のニューヨークは世界の先端となった。ビート文学、抽象表現主義のアート、モダン・ジャズの三本の柱によって、ニューヨークを書きたい。
『プルーストの浜辺』
 『プルーストの部屋』とペアになる本として、プルーストと1900年のノルマンディーの浜辺について書きたい。

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